ある日、ふと思った。
『この剣さえなければ』…と。
こんなモノがあるからごたごたが起こる。
なら目の前からなくなれば良い。家を出て、どこかに棄ててこよう。それで十分だ。
…。
そう思ってはや数年。
剣はまだ…俺の手の中にある。
【 刃の先、その意味 】
「…貴様…今何と言った?」
光の剣―ヴァルはこいつをたまにゴル何とかかんとか呼んでる―それを小突きながら話す俺を見て、ヴァルはいつにも増して顔に青筋を立てた。
あれ、目元がピクピクしてきたぞ…。
ちょっと暇つぶしに旅の話をしただけなのに、何をそんなに怒ってるんだろう?
「だからー、以前旅の途中でこの剣を棄てようとした事があったなぁ〜って話―」
「貴様はバカかぁっ!!」
叫ぶが早いか、ヴァルは俺の胸ぐらを鷲掴んで吼えた。
若干喉にあたる爪が痛い…。
「な、そんなに気にすんなよ〜!」
「んなとんでもない事をさらりと語るなっ!!」
「今は棄てる気ないんだから良いだろ?」
「以前だろうが何だろうが知るかこの脳みそクラゲ男が!」
「ぅー…」
そう、以前俺はこの剣を棄てようとした。リナと出会う少し前だったかな。
まぁあの時はちょっとヤケになっていただけだった気もするけど…海辺であの妙な男に会っていなかったら、今この剣が俺の手元にあるか正直怪しい。
その後の旅を考えると、あの時剣を棄ててたら絶対死んでただろうなぁ、うん…棄てなくてよかったよかった。
それに、
「…い、おい!聞いているのか!?」
「え、あぁ…悪い。聞いてなかった」
「貴、様…ッ!」
「そう怒るなって」
笑いながら頭にぽんっと手を置くと、相変わらずヴァルは睨んできた。
こいつもしかしてカルシウムが足りてないのかなぁ…。
「ふん、今後さっきの様な戯言をほざいたら俺が直々に殺しに行ってやる」
「だからもう棄てる気はないって」
「本当だな?
ふっ…まぁ、ソレを棄てて貴様がこの先生きていけるとも思えんがな」
「まぁな。
生きていく為にも必要だーってのもあるけど…もったいないだろ?」
「…もったいない?」
眉をひそめたヴァルを見つめながら、俺は思ったことを言った。
「お前と会えなくなるからな」
「なっ!?」
ようやく手を離したかと思えば、ヴァルは顔を真っ赤にしてちょっと後ずさった。…反応がいちいち可愛いなぁコイツって。
「お、俺が、何…だと?」
「俺がコイツをちゃんと持っていけば、お前は俺に会いに来れるんだろ?」
「自惚れるな!勘違いするな!大体俺は光の剣が欲しいのであって貴様に会いに来てる訳じゃ―」
「違うのか?」
「……………」
絶句するヴァル。これは…図星って事でいいんだろうな。
反応がいちいち嬉しく思う。
踵を返し、立ち去ろうとするヴァルの背中に向かって、俺はしっかり誓った。
「俺からはお前に会いに行けない。だからその分、この剣は絶対誰にも渡さない」
「っ……勝手にしろ!」
「あぁ」
俺は応えた。根は素直なアイツの事だから、きっと喜んでくれてると思う。もちろんただの勘だ、根拠なんてない。
俺がアイツを好きだからそう思うってだけだ。
「…おい…ガウリイ」
「なんだ?」

振り返ることなく、ヴァルは口を開いた。耳をすまさないと聞こえないくらいの小さな声で、
「…俺以外に光の剣を奪われるなよ…」
シュンッ!
「…。」
そうして、アイツはまた帰っていった。
最近、こう思う。
『この剣を手放したくない』…と。
これがあるから、会える。なら持っていればいい。誰にも渡さないし、渡せない。
いつ会えるのかなんてわからない。でも俺が手放さなければ、そのうちアイツに会えるし、アイツも俺に会いに来れる。
多分この剣が厄介事に関わる事に変わりはない。でも好きなやつに会える、それで十分だ。
…。
剣はまだ…俺の手の中にある。
これからも、ずっと。
《 END 》
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