今まで見たことがない程、穏やかな笑み。
それが、消える直前のアイツの顔だった。
いつまでも続く訳などない。
たとえそれが良いことでも悪いことでも。
そんなことは最初から知っていたはずだった。
― デモ、ソレデモ ―
アイツは自分の生を疎んでいた
アイツは生きとし生けるものを、自身を、世界を、憎んでいた
― デモ、ソレデモ ―
俺はアイツに生きていて欲しかった、俺を狂わせたアイツに。
けれど、アイツは拒絶した。
アイツは滅びたがっていた、そして消えた。
同時に俺は拒まれて、…捨てられた。
もう、手を伸ばして涙を拭ってはやれない。
もう、優しく微笑んでやれない。
――もう、何も出来ない。
【 ヤクソク 】
戦いが、終わった。
さっきまでの混沌とした気配は消え、まるで春が来た様なうららかささえ感じる。
雪が溶け、草花が芽吹き、空は美しく澄みきっている。
「・・・」
吐き気がした・・・。
アイツはもういない。助けてやれなかった、救ってやれなかった。
もう消えれば良い。
偽善的な神も、滅びを望む魔族も、生を謳う人間も。
そして、俺自身も。
全て、全て・・・消えてしまえばいい。
そう、思った。
― モシモ… ―
刹那。
「・・・・・・!!」
羽根が…純白の羽根が舞い落ちてきた。
俺たちを包むように、優しく、艶やかに・・・
― モウイチド、デアエタラ… ―
・・・これは・・・一体。
「・・・っ!」
舞う羽根から一瞬女の姿が見えたかと思うと、何かが現れた。
アイツの髪の様な、淡く、美しい、翡翠の様な宝珠が。
― ソノトキコソ ―
「・・・コイツは」
間違いない、あぁ・・・間違いない。
フィリアの手の中に納まった、小さい小さい命の鼓動。
「・・・ヴァルガーヴ」
― …イッショニ… ―
その晩、俺は夢を見た。ヴァルガーヴが立っていた。
穏やかな笑み・・・だが、死ぬ時とは明らかに違う。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
何も言わないヴァルに、俺はただ微笑んで、髪を撫でて、抱きしめた。
背中に感じるアイツの手のあたたかさに、想いがあふれそうになった。

「・・・ガウリイ、泣いているのか?」
「泣くかよ」
「そうか・・・」
満ちたりた声で擦り寄るヴァルの肌は相変わらず少し冷たい。
「・・・ガウリイ」
「何だよ・・・また消えちまう気か?
言っとくが、以前みたく飛び立っちまうつもりなら、俺はこのままお前を離さないぞ」
「・・・待っていてくれるか?」
「・・・ヴァルガーヴ・・・?」
少し離して、ヴァルを見つめる。
生きた目をした、とても美しく、穏やかに微笑む男がそこにいた。
「俺を・・・待っていてくれるか?」
「・・・」
小さな命。
しかし、人間と違う時間の流れの中で、それはすぐに生きる鼓動を早くして、大きくなるだろう。
小さいうちは会っても分からないかもしれない、だがそれでも構わない。
それならまた、0から始めれば良いだけの話だ。
またこうして出会う日の為に。
「早くデッカクなってくれないと、俺がじいちゃんになっちまうぜ?」
「ふ、すぐに追いついてやるさ・・で、返答は?」
「聞くまでもないだろ?」
俺の返答がお気に召したのか、ヴァルは唇でそっと俺の頬に触れた。
「約束したからな」
「あぁ、約束だ」
― オイテイクコトモ、オイテイカレルコトモ、イヤナラバ ―
ヴァルの姿が消えていく。
別れる為ではなく、再び出会う為に。
約束は・・・互いに交わすもの。
決して切れることのない者たちの誓い。
「・・ヴァル・・・」
― トモニイキレバイイ ―
今度はいつまでも一緒にいられるように・・・
いつまでも隣で笑っていられるように・・・
「俺は、お前が好きだよ」
今度は俺が迎えに行くよ。
またな・・・
【 END 】
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