【 執着 -想い- 】
その晩、ガウリイは変だった。
「っ!おい・・・!」
たたみ込む前に強い力で引き寄せられ、彼の腕の中に飛び込む。
「おい!聞いているのか!?」
「聞こえてる」
「・・・!」
耳元で囁かれる声に顔が紅潮する。
会いに来たばかりでいきなり抱き寄せられ、混乱しているヴァルガーヴなどお構いなしで、ガウリイは顎に手を掛ける。
「ヴァル・・・」
いつもの澄んだ蒼とは違う深く暗い紺。
その飲み込むかのように近づいた瞳が、ゆっくりと細められる。
そして呆然としたままのヴァルガーヴに、強引とも言える仕草で唇を重ねる。
「ん・・・っ!」
少しでも暴れようとすると鍛えられた腕が痛いほど強く拘束してきた。
荒々しく吸い上げたり、優しく絡めてきたり。
感じやすい上にこの不意打ち。
身体の自由が効かなくなるのにそう時間はかからなかった。
「ふ…ぁ、………ん…っ」
名残惜しげに離される唇からは透明な糸。
胸にもたれたヴァルガーヴに、ガウリイは小さく微笑んでみせる。
「相変わらず甘いな、お前の」
「っ、・・・この・・・!いきなり何なんだ・・・?」
「・・・」
ガウリイはヴァルガーヴを抱きしめたまま動こうとしない。
会った途端抱きしめられるのは珍しいことではない(それも問題なのだろうが)、だがこうも強引な行為にかかるのは初めてだ。
(・・・何か、あったのか・・・?)
ヴァルガーヴは意識を引き戻しながら、ガウリイの腕の中で想いを巡らせた。
まさか具合でも悪いのだろうか・・・、はたまた自分が気分を損ねるような事をしたのだろうか・・・。
いや、仮に後者ならこんなことはしないだろう・・・となれば前者かそれ以外。
聞けば良い・・・のだろうが、どうにも気恥ずかしくて、なかなか言葉にならない為、
「言いたい事があるならはっきり言ったらどうなんだ!!」
結局いつものケンカ腰で聞くハメに・・・進歩がない。
そして、ようやく口を開いたガウリイは、
「お前・・・」
神妙な顔つきで語った。
「お前・・・他の奴に近づきすぎだ」
「・・・・・・・・・・・・・は?」
思わずぽかん・・・とするヴァルに構わず、ガウリイは続けた。
「もう少し何とかならないのか?」
「な、何を・・・・・・」
「会ったらまず『光の剣』だし、リナばっかり構うし、アル何とかとは親しげだし、ゼロスとはずっとじゃれてるし・・・」
「ちょっと待ていぃっ!!」
完全にズレた思考を語るガウリイを引き剥がし、びしぃ!っと指差す。
光の剣はそもそもの目的物、リナは主君ガーヴの仇、アルメイスは利害の一致による一時的な協力者、ゼロスとは本気の殺し合い。
どの事実をあげても、決してガウリイの言うような『仲良しさん』像は出てこない。
「貴様!あの場にいてどこをどう見ればそう見えるっ!?」
「見えるんじゃなくてそうだろ?」
「大いに違うだろう!違い過ぎるだろう!すべてが、根本がぁっ!!」

こんな脳みそ寒天男相手に、先ほど自分が翻弄されたかと思うと切なくなってくる。
一瞬だけ魔竜王様にすがってしまった自分がいたりした。
(うぅ…申し訳ありませんガーヴ様・・・俺、こんなところで挫けそうです・・・)
いっそ一度殴り倒してやろうかと思い立ったその時、
(・・・・・・?何だ・・・この違和感は・・・)
妙に冷たい空気を感じて、ヴァルガーヴはガウリイの目をじっと見た。
「・・・ガウリイ?」
「・・・」
本気だ。日常のとは程遠い、どちらかというと戦場で見るあの表情に近い。
(・・・)
仮に数千歩譲ってガウリイが思っている事を肯定するとなると・・・この表情はつまり、
「・・・ガウリイ・・・まさか貴様・・・リナ=インバースらに、その・・・嫉妬でもしていたのか・・・?」
「・・・」
嫉妬。
自分で指摘するのも躊躇われる言葉だが、恐らく間違いない。
憮然とした顔で否定しないガウリイが、それを物語っている。
(はっ、バカかコイツは)
ガウリイが嫉妬するような事など何一つないのだと、鼻で笑ってやろうかと思って口を開こうとした、だが、
「・・・悪いか?」
「・・・・・・何?」
「好きな奴が、他の輩と一緒にいるのを見て・・・嫉妬して悪いか?」
「・・・」
ガウリイの表情は変わらない、真剣そのもの。
彼の解釈は180°間違っているのだが、その想いに偽りはない。
その瞳には、僅かながら苛立ちが見えた。
リナ、光の剣、アルメイス、ゼロス、ガーヴ・・・。ヴァルガーヴが自分以外の何者かを見ている、執着している。
ガウリイはそれが気にいらない。
夜になればこうして会える。自分だけを見つめる金色の瞳が、自分を求めてやって来る。
分かっている、でも足りないのだ。
好きな人には自分を、自分だけをずっとずっと見ていて欲しい・・・それが現実的に無理な話だと分かっていても、心はどうしようもなく相手を欲し、揺らぐ。
「俺はお前が好きだ。だから俺は・・・」
― お前が見るもの全部に嫉妬する ―
「・・・!」
一瞬息が出来なかった。再度背中に回された腕の力が強くなったからではない、その瞳から目を反らせず、魅せられたからだ。
「・・・貴様、身勝手過ぎるぞ」
「身勝手だろうがなんだろうが、そうなんだから仕方ないだろ?」
ヴァルガーヴの耳元で囁かれる声、頬にかかる吐息・・・それが、実に心地よい。
下手するとこの男、どこぞの魔族なんかよりずっと性格が悪いのではないだろか。
・・・比べるまでもない。
こんなにも自分勝手で
こんなにも嫉妬深くて
こんなにもまっすぐに自分を想ってくれる
(まったく、どうしようもないな。それに惹かれた俺も含めて・・・)
「・・・怒ったか?」
「もう怒る気にもならん」
ぶっきらぼうながら、ヴァルガーヴの言葉に毒気はない。
その顔に自然とガウリイは笑みがこぼれた。
「好きだぞ、ヴァル」
「そうかよ」
「お前さんは?」
「知れたことだろ?」
「聞かせてくれよ」
「こんな事で嫉妬する男に俺があっさり言うと思うのか?」
「じゃあ、聞き出すとしますか」
反応に笑ったのはどちらが先だろう。
言葉を交わすことさえ憚られる光の下ではなく、暗闇に扮した今が互いにお似合いだ。
互いに飽きれながら、確かめ合うように、戯れるように、愛しむ様に、キスを贈り合った。
想い、想われる事。
執着とも言えるそれは、時に行き過ぎで、バカみたいで・・・実に背徳的で。
そうだと分かっていても止められはしない。
それもまた想いだから。
今はただ、それに酔いしれれば良い。
[ END ]
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