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【 B L U E M I N T 】

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【 自覚―『G』― 】

 
「お前、今日の夕飯何を食べたか覚えているか?」
「は?」
 
剣の手入れをしながら、からかいを含んだ言葉を飛ばすゼルガディスに、窓の外を見ていたガウリイが振り返る。
表情が冴えない。昼間の一件があってからずっとこの調子だ。
 
「なんだよいきなり」
「いいから言ってみろ」
「夕飯、か…?えぇと…」
 
口を開…きかけて、止まった。出てこなかった。
 
(…あれ?)
 
食べたはずだ。だが何を食べたのか…そもそも食べたのかすら、ぼんやりしていてよく思い出せない。
 
そんなガウリイの様子に、ゼルガディスは予想通りとばかりにこめかみに指を当て、程なく苦笑した。
 
「覚えてないのだろう?お前、ほとんど口にしてなかったもんな」
「そう…だったのか?」
「リナにアレを聞かれてから、一日ずっと上の空だ。
完全にコソドロのカモだな」
「…」
 
実際は多少ぼぉっとしていようが、ガウリイが泥棒に一本取られる様なヤワな鍛えをしていない事は、ゼルガディスも従順承知だ。
それほど、今日のガウリイは妙なのだ。
 
「まだ気になっているのか?」
「何の事だ?」
「やはりな」
「だから、何がだよ」
「いや、いい」
 
 剣の手入れをし終わり、ゼルガディスは立ち上がった。きびすを返し、ドアへと向かう。
 
「こんな時間にどこに行くんだ?」
「夜風に当たってくる。
どうせ『奴』は今日も来るのだろう?…いい加減自覚しておけ」
「ゼルガディス…?」
 
パタン…。
 
閉まるドアの音が、妙に部屋に響いた。
 
 
 
 
 

「…自覚、ね…」
 
窓の外を見つめながら、ガウリイはここ数時間を出来る限り振り返ろうとしてみた。夕飯同様あまり思い出せない。
思い出せるのは昼間、リナから指摘された言葉。
 
『ガウリイ…アンタ、最近変よ?
いや、いつもヘンはヘンなんだけど、それ以上に変って言うか、妙に動きが鈍いっていうかさあ…』
 

「………」
 

リナも理由は分からないようだった。そしてさらにリナはこう言った。
 
『特にヴァルガーヴと戦う時さー…』
 


「……」
 

身体に不調はない。自分で動きが鈍っていたとも思えない。何が違うのか、ガウリイも分からない。
いつもなら気のせいかで流す事だ、自分の記憶力の悪さには妙に自身がある。だが、とてもコレは引っかかった。
 
「…ヴァルガーヴの時、ね…」
 
ふと、頭に彼の姿が浮かぶ。
 
昼間の怪我…リナたちから攻撃を少し受けていた。
無事だろうか…。
もう治っただろうか。
アイツは回復魔法を使えないはずだ。
自分で治療しても傷が残るかもしれない。
今度は、いつ来るだろうか…。
次に会ったら、あんまり一人で無茶するなって一度説教でもして………ん?
 

(何で俺、こんなにアイツの事を…?)
 

グルグル頭で考えていたら無性にモヤモヤし、自分の頭をがしがしと掻く。
何を考えているのだ。
 

「…」
 

こうして一人になると、数年前までの自分を思い出す。
腐りかけていた傭兵生活を、麻痺していた感情を。
 
もしかすると、未だついていっていない鈍った感情があるのかもしれない。
 
(だが…「何の」感情だ…?)
 

「…や、本当は気づいているのかもしれないな…」

「何にだ?」

「…!!」
 

窓に映った人影に振り返れば、男が腕を組んで壁にもたれていた。
ランプも灯されていない真っ暗な部屋に、際立って光る、金色の瞳。
 

「…ヴァル、ガーヴ…」
「……」
 

音もなく歩み寄り、一定の距離で止まる。







部屋をほのかに照らす月。それに照らされ、光と影を同時にまとったヴァルガーヴは神々しささえ感じる。

実に…美しかった。
 


「…何を笑っている?」
「え」
 

いつも間にか、ガウリイは笑っていたらしい。
 
敵に?笑う?…何故。
 

「相変わらずふざけた奴だ」
「お前も随分堂々とした夜襲だな」
「・・・」
「・・・」
 

ヴァルガーヴの意図は未だにわからない。
まだ数えるほどしか夜襲は受けていない。その中で本気で仕掛けて来る時もあれば、こうして訳もなく共に時間を過す事も今ではさしてめずらしくもない。
 
互いの事を深く話した訳でも、想いを伝え合った訳でもなく、ただ過ごす。

それが何を意味するのか、ガウリイには未だわからない。おそらくヴァルガーヴも。
 

(ひとつだけ確信していることはあるけどな)
 

黙り込んだヴァルガーヴを見つめ、ガウリイは再度リナの言葉を思い出す。
 

『特にヴァルガーヴと戦う時さー…』
 



ヴァルガーヴ。
会って間もない。光の剣を狙っている敵。
だが何故だろう…戦いの最中、共に過ごすあの空間で感じる違和感は、あの想いは。
 

壊れやすい、まるでガラス細工のようなアイツの想いのかけら。
そのかけらが見える度に…ガウリイはそれを無意識に集め、その中に自分の想いを重ねる。
 

俺をもっと知って欲しい、
もっと俺も感じて欲しい…。
この想いは…この、感情は…。
 


(…そうか。俺は、ヴァルガーヴの事を…)
 



「おい、さっきから何をぼぉっとしている?」
「え、あ…いや…」
「…」
 
これが夜でなかったら確実に見えていたであろう少し赤らんだ顔を隠すように、口もとに手を当てる。


 
『…いい加減自覚しておけ』


 
ゼルガディスの言葉が響く。
自覚なく集めていたかけらがふいにひとつにまとまった。
 
(俺は……コイツに惚れているのか)
 

「…ヴァルガーヴ」
「何だ」
「俺…」
 
そこまで言って、ハッと正気に返る。
 
……もし、ヴァルガーヴがそんな風に想っていなかったら?

最悪、こうして会えなくなったら?
 

その時はどうすればいいのだろう…?
 


(……。…まだ……いい)
 


「何だ?
何か言いたい事でもあるのか?」
「何でも、ない」
 
自分なりに少し考え、言葉を飲み込む。
 

もう少し。
ちゃんと手応えを見つけるまでは、このままでいよう。
 


「…妙なヤツだ」
「そうか?」
 
今度は自分でも笑ったのが分かる。
 
自覚した。だから今度からその想いに素直に成れば良い。
そうすれば後は、ヴァルガーヴ次第。
 

「そういえばお前さん、昼間の怪我治ったのか?」
「怪我?
ふん、あんなもの傷のうちに入らん」
「大丈夫だったんだな、よかった」
 
満面の笑みを送るガウリイに対し、ヴァルガーヴは目を見開き、暗い部屋でもわかるくらい赤くなった。
 
「て…敵の心配をするな!!」
「別に俺の勝手だろ?」
「…貴様、本当に妙な人間だな」
「お前も結構妙だと思うぜ」
「貴様に言われたくはない!」
 
流して消えてしまいそうなこんな会話すら愛しく思えるのは、自覚したからだろうか…それとも初めからだったのだろうか。今となっては判定のしようもない。
 

「ちっ!…今日は、日が悪い…出直す!」
「わかった」
 
クスクス笑って、一定距離をとったままヴァルガーヴを見つめる。
 


もう少しだけ、待ってみよう。
その間、お前だけを想うから。
だから、
 

「…ヴァルガーヴ」
「何だ?」
「また来いよ」
 
そうして笑顔で見送る。
 

「…」
 

闇に消えた影。
それを目に焼き付けて、ガウリイはもう一度窓の外を見た。
 

自覚と共に、もう暫く、欲望と理性の葛藤が続くようだ。



 
「今度から覚悟しとけよ、ヴァル…」
 
【 END 】



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